2006年12月号

進学するにしても、就職するにしても、英語力が問われることに変わりはありません。英語は苦手ということで済ますわけには行かないのです。ここでは、英語で一番重視される読解の攻略法を技術として紹介します。

「英語が苦手」という方の多くが、英文読解を誤解しています。「単語」「熟語」「文法」を暗記して、それを実際の英文に当てはめて解釈することが、英文を読むことだと思っているのです。「単語」「熟語」「文法」は、言わば、家を立てる際の建築資材にすぎません。建築資材がなければ、家は建てられませんが、いくら建築資材を調達しても、家を建てる技術がなければ家は建ちません。建築技術があって、初めて資材が生きてきます。英文読解は、「単語」「熟語」「文法」といった断片的な知識を、有機的に結びつける技術を習得することで、初めて可能になるのです。
ここでは、その基本的な技術を四つ紹介します。


●英文読解の基本技術

1)動詞+名詞+α(αは何でも良い)の形式の読み方

 この形式の文は動詞の後ろに文が埋め込まれている(隠れている)ように読めば文の意味の骨子が大抵わかります。

例文1
訳例
The rain compelled us to stay indoors.
「雨のために我々は外に出られなかった」

 この文の場合、compelledという動詞がわからなければ、<us to stay indoors>の部分を埋め込み文と考え、usをその主語、to stay indoorsを述語とみなします。不定詞は、歴史的に見れば、前置詞to+名詞ですから、埋め込み文の意味は「私達が屋内に留まるという行為の方へ行く」となります。したがって、compelledの意味がわからなくても、文全体の意味の骨子は「雨によって私達は屋内に留まるようになった」だとわかります。

例文2
訳例
Her attitude rendered him speechless.
「彼女の態度に彼はことばを失った」

 この文でrenderedの意味がわからない場合には、<him speechless>の部分を埋め込み文と考え、himをその主語、speechlessを述語とみなします。この部分を「彼がことばを失う」といった意味に解すわけです。こうした状況は「彼女の態度」を主語とするrenderという動詞によって起こったと考えられますから、文全体の意味の骨子は「彼女の態度によって彼はことばを失った」となります。

2)動詞+前置詞+名詞の形式の読み方

 この形式の文は、動詞を無視して動詞のかわりに前置詞を動詞のように読めば動詞の意味がわからなくても文全体の意味の骨子は大抵つかめます。

例文1
訳例
I abstain from smoking.
「私は禁煙している」

 この文でabstainがわからない場合は、この動詞を無視して、前置詞fromを動詞のように読みます。from+名詞は、名詞を出発点にしてそこから離れる、という意味ですから、「私は喫煙から離れている」という文全体の意味の骨子が把握できます。

例文2
訳 例
Next, the wheat is ground into flour at the mill.
「次に小麦は製粉所で小麦粉に加工される」

 この文で、is groundという受動態の動詞がわからなければ、この動詞を無視してintoを動詞のように読みます。 into+名詞は「名詞に入る」、「名詞に変わる」ですが、into flourを「小麦は小麦粉の中に入る」と読んでも意味を成さないので「小麦は小麦粉に変わる」と読み、文の意味の骨子がつかめます。


3)比較の原理を利用した読み方

 「比較・対比・対立関係にある2つのものは同種で同様に扱われる」という比較の原理は、狭義の比較文だけでなく、一般に二つのもの(人や事柄も含む)を問題にする(広い意味で比較する)場合に適用されます。

例文1
訳例
This is a different girl from the one he used to go out with.
「この女の子は、彼がかつてよく一緒に外出していた女の子ではない」

 この文で、たとえoneがわからなくても悩む必要はありません。「異なる」も一種の比較ですから、比較の原理が適用され、α is different from β.(「αはβと異なっている」)やS is different α from β. (「Sはβと異なっているαだ」)のαとβはfromを境にして同種のものが並んでいることになります。

  したがって、この文のoneはgirlと解され、from以下はthe girl he used to go out withとなります。名詞+SV―の形式におけるSV―は名詞を後ろから説明する形の1つ(関係詞の省略節)ですから、the girl以下は「彼がかつてよく一緒に外出していた女の子」となり、文全体の意味が明らかになります。

例文2
訳例
Sugar is bad for your teeth. It can also contribute to heart disease.
「砂糖は、また、心臓病の一因になる可能性もある」

 この文で、contribute to…という表現(「…の一因になる」)がわからない場合を考えてみましょう。普通はcontribute to…は「…に貢献する」という意味ですが、「heart disease(「心臓病」)に貢献する」では意味をなしません。alsoという語がヒントになります。

  alsoは、「(も)また」という意味です。「(も)また」は「もと」になる表現がなければ使わない言葉です。したがって、この言葉が使われている時には、少なくとも二つのものが問題になっており、比較の原理が適用されていると考えることができます。

 Sugar以下の前者の文は、歯に対する「砂糖」の悪影響を述べた文です。It=Sugarですから、alsoの存在が示す比較の原理によって、It以下の後者の文も何らかのものに対する「砂糖」の影響を述べた文だということがわかります。

 後者の文中に、前者の文の歯(teeth)と、人体の部位として同種である心臓(heart)が、心臓病(heart disease)という語の構成要素として存在することに注目すれば、disease(「病気」)の中には、bad(「悪い」)が意味的に含まれていることから、この文が、心臓に対する「砂糖」の悪影響を述べた文であることがわかります。したがって、後者の文の大まかな意味は「砂糖は心臓にも悪い」となり、文全体の意味の骨子がわかります。


4)論理展開の基本原則を利用した読み方

 英語には、「何かを述べるとその後に説明や例を続け、述べたこととその説明や例の双方に意味または形の上で同様の表現が現れる。これらの表現は、全て論理的に同じものと考える」という論理展開の基本原則があります。この原則を応用した読み方ができるようになると、難しい英文でも速く的確に読むことができます。この原則を応用して英文を読む技術は英文読解の最も役に立つ技術です。

例文1
The sense in which Aristotle had spoken of politics as the“master science”was still a current one in the eighteenth century ,and it was in this sense that Hume spoke quite simply but comprehensively of politics as dealing with“men united in society and dependent on each other.”
(注)speak of A as B「AをBと言う」、it was in this sense that…:in this senseを強調する強調構文

誤訳例
「アリストテレスが政治学を「諸科学の王」と言った意味は18世紀にも依然として成り立っており、この意味でヒュームは政治を極めて簡明に、しかし包括的に、「社会の中で結合し、互いに依存しあう人間」を扱うもの、と言った」

 ここに挙げた訳例は、ある市販の大学院入試用問題集のものですが、何を言っているかわからない誤訳です。

何故このような誤訳が生じるのでしょうか。

 英語の論理展開の基本原則を無視したことが原因です。
「この意味で」という表現から明らかなように、 politicsに関する “master science”という表現と、dealing with“men united in society and dependent on each other.”という表現には、論理的に同じものが含まれていなければならないのに、「諸科学の王」という表現と、「社会の中で結合し、互いに依存しあう人間」を扱うものという表現の間には、そうしたものが含まれていないため、両者つながりは非論理的なものになっています。

 両者の表現が論理的つながりを持つためには、“master science”はdealing with“men united in society and dependent on each other.”(「社会を構成し互いに依存し合う人間を扱う」もの)でなければなりません。“master science”は「諸科学の王」ではなく「統治者の学問」(master=ruler)となります。

解答例

全訳例
「アリストテレスは、政治学は「統治者の学問」である、と述べた。その意味は18世紀になっても変わらなかった。ヒュ−ムが、政治学は「社会を構成し互いに依存し合う人間を扱う」ものである、と簡潔に且つ包括的に述べたのは、この意味においてであった」

 

例文1
Emotions are everywhere the same; but the artistic expression of them varies from one country to another. We are brought up to accept the conventions current in the society into which we are born. In our childhood, we learn that this sort of art is meant to excite laughter, that to provoke our tears.

訳例
「人の感情はどこでも同じものであるが、そうした感情をどの様に表現するかは時代ごとに国ごとに異なっている。我々は教育によって自分が生まれた社会に現に在る感情表現に関する決まりを受け入れるようになる。この表現の仕方は笑いを誘うものであり、こちらの表現の仕方は涙を誘うものである、といったことを、我々は子供の時に学ぶのである」

 この文で、artisticを「芸術的」とすると、the artistic expression of them(=emotions) varies from one country to anotherという部分は「感情の芸術的表現は国ごとに異なっている」となり、意味が曖昧になります。

 こうした時は、論理展開の基本原則を応用するために読み進みます。societyとcountry(「国」/「社会」)の意味の類似によって、We are brought upで始まる文(societyを含む)はthe artistic expressionで始まる文(countryを含む)の説明であり、the conventions current in the society into which we are born(「自分が生まれた社会に現に在る決まり」)はthe artistic expression of themに関する決まりです。

 さらに、We are brought up to〜(「我々は〜するように教えられる」)とwe learnの意味の類似によって、In our childhoodで始まる文はWe are brought upで始まる文の説明です。
したがって、this sort of artと問題の表現artisticは論理展開の基本原則によって論理的に同じものとなります(ちなみに、that to provoke our tearsは、thisとthatの対比及びlaughterとtearsの対比から、比較の原理により、that sort of art is meant to excite our tears (provoke = excite))。

 the artistic expression of themのthemは「感情」でしたから、このartは感情表現に関わるものです。我々が子供の頃に学ぶ「人を笑わせたり泣かせたりするためのもの」で感情表現に関わるものは、「人を笑わせたり泣かせたりする方法」以外にありえません。 artには「技術、方法」という意味があります。artisticは「技術的、方法に関わる」であり、the artistic expression of themは「感情の技術的表現」、すなわち「どのように感情を表現するか」という意味になります。

 
Close Window