2007年8月号
働く人による職業案内
■この仕事に就くまで

率直に申し上げると、積極的に税理士を選んだというよ りも「資格が必要な職業だから選んだ」というのが実感です。私の大学時代は、就職状況の厳しい時期でした。
両親から「こんな時代だし、何か資格をもって働ける仕事がいいのでは?」とのアドバイスを受け、それをきっかけに税理士試験の勉強を始めたのです。当時私は経済学部で学んでいて、たまたま簿記の授業をとったことがありました。
他の資格にくらべると、税理士試験の受験科目に親しみが感じられました。

税理士資格に必要な科目は全部で5つです。「科目ごとの合格制」を採っているので、1科目ずつ受験していくことも可能です。私は大学3年の7月にまず1科目受験し、不合格になりました。大学4年のときも、2科目受けて全滅しました。ここまでは独学してしてましたが、さすがに意を決して専門学校に通うことにしました。人にもよるでしょうが、独学はどうしても自分に甘くなります。私の場合、苦手、嫌いな分野を勉強しなくなったり、細かい部分をおざなりにしたりする傾向がありました。さいわい、専門学校で独学の弱点を補うことができ、大学卒業直後の試験で2科目合格することができました。その次の年にも2科目合格。残り1科目になったので会計事務所に就職し、働きながら最後の1科目に台格しました。

KALSには、さまざまな試験に挑戦しようとする方がいます。
私がみなさんに何か言えるとしたら、「度胸だめしで受験するのはおやめなさい」ということでしょうか。

結果はともかく、合格しておかしくないくらいの準備(勉強)をして受験したほうがよいでしょう。
半端に勉強してしまうと、本当は理解できていないのにわかった気になってしまいます。だから、まずはしっかり勉強して「突き詰めた」といえる段階に達すること。そこまできてようやく試験攻略のために具体的な方法を考えることができるのだと思います。

■税理士の1年

「税理士の仕事」は、人によって、あるいは事務所によって違います。私の事務所は中小企業の顧問業務が中心で、現在約50件のクライアントを抱えています。主な業務内容を簡単にいうと、企業の決算と税金の申告をお手伝いすることです。

もう少し具体的にお話しすると、こんなふうになります。企業では、日々のお金の出入りを帳簿に記入し、ひと月ことに売上げがいくら、経費がいくら、というふうに締めていきます。そしてこれを「2ヶ月分積みあげて決算を行います。決算を基に税額を計算し、必要な書類を作成して税務署に申告します。私達はこの流れを、企業の実情にあわせてお手伝いするのです。たとえば日々の記帳から申告まで全て任せていただいているクライアントもあれば、決算や申告だけをお手伝いしているクライアントもあります。

忙しさでいうと、決算・申告が集中する時期が一番多忙です。日本では3月や9月を決算月とする企業が多く、申告期限は原則としてその2ヵ月後ですから、5月、11月あたりが繁忙期となります。そのほか、年末調整が行われる12月、個人の確定申告が行われる2月、3月あたりも忙しい時期です。反対に夏場は比較的のんびりしてしています。

実を言うと、いま税の計算や書類の作成はほとんどソフトがやってくれます。正しくデータを入力すれば、誰がやっても同じように書類を作ることができます。個性が出るのは対人関係の部分です。顧問先の社長と話してウマが合うか、信頼できるか、長く続く人間関係を築けるかどうか…などは、私達の仕事上とても大きなポイントだと思います。

■1日の流れ

1日単位の仕事の流れは特に決まっていません。唯一決まっているのが、朝の時間の使い方です。事務所の定時は9時から17時半ですが、私は毎朝7時半すぎに事務所に采ています。そして9時までの1時間半の間に、メールチェックやスケジュールの確認、1日の段取りなどをします。このひとときはとても貴重です。少し準備をすることで1日をよりスムーズに過こすことができますし、その気になれば1つのまとまった仕事を終えることもできるからです。

9時にスタッフが来たあとは、クライアントに決算の数字を説明しに行ったり、スタッフが済ませてくれた仕事をチェックしたりします。大学院で講義をもっているので、その準備をして講義に出かけたり、金融機関の方と会ってお話することもあります。外に出かけてそのまま帰ってしまうこともありますが、事務所で1日過こした場合はだいたい19時ころに仕事を終えます。

■これから社会に出るみなさんへ

まず、注意すべきは国際化の流れです。いまビジネスの世界には外国人がどんどん入ってきています。実は、税理士もこの流れを無視することはできません。社長が外国人である企業が増え⊃つあるので、英語で意思疎通ができないと顧問先を失う危険性があるのです。また、日本人と外国人は感覚が違うので、相手を理解した上でお 付き合いする必要があります。これから社会に出るみなさんは、どんな仕事に就くにしても、語学力と国際感覚をもっていなし、とビジネスの世界で失敗してしまうかも知れません。

また、近年は環境の変化がとても激しくなっています。会計・税の世界をみるだけでも新会計基準の採用など、ここ10年ほどの間に激しく変化しました。世の中の仕組みが変われば、仕事や雇用が変わります。働く側の気持ちも変わります。だからこそ若い皆さんにおすすめしたいのが、ある程度のライフプランをイメージすることです。

といっても、今の段階で20年後、30年後の人生を決めろというのでほありません。キャリア形成のスタートの段階で「このままいくと、自分はこうなりそうだ」という現状把握から始め、「こんなふうになりたい」「こんな仕事に就きたい」とおおまかな目標をイメージし、「そのためにはどうすればいいのか」と少しずつプレークダウンしていく。
そうすれば、今やるべきことがだんだんと見えてくるでしょう。目標は修正することもできますから、闇雲に進んでいくよりも、まずは方向性を見定めておくことをお勧めします。

 
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