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臨床心理フェア2008
「臨床心理士を目指す人へ 臨床心理士に求められるもの」

日本臨床心理士資格認定協会常任理事/広島国際大学教授 上里一郎 氏

臨床心理士とは?


今日は1時間弱、臨床心理士についてのお話をしたいと思います。さて、臨床心理といって思い浮かぶことはなんでしょうか。私は、ピアノの演奏を思い浮かべるんですね。フジコ・へミングというピアニストをご存知ですか?彼女の、リストの協奏曲は本当にすごいですね。心にしみこむ音楽です。ある評論家が、フジコは神の手を持っているといったくらいです。臨床心理士というのは、音楽家と似ていると思うんですね。音楽家は楽器というツールで音楽を表現します。同じ楽器を演奏しても、人によって、表現された曲は違ってくるわけですね。臨床心理士もこれと同じです。臨床心理士は薬など物理的な治療はできません。コミュニケーションを通してクライアントとお会いし関係を築いていくわけです。ですから自分こそがツールとなるわけですね。つまり、一人ひとりの価値観や考え方で、すすめ方が違うわけなんです。臨床心理士には楽譜はありません。海図がない中で、皆 四苦八苦してクライアントと向きあっています。看護士なども同じですが、大学院を卒業してもすぐには役に立ちません。何年も経験を積んで、3年から5年以上たってやっと使いものになるようになりますね。大学院卒業後すぐ臨床心理士の資格は取れますが、成熟したものになるという保証はないんですね。

皆さんご存知のように、臨床心理士の指定大学院は1種、2種、専門職とあります。専門職大学院は今5校になりましたが、関東にはまだないんですね。2種というのは卒業後1年間、仕事をしてからでないと臨床心理士の試験を受ける資格ができないというものです。1種は在学中に実習がありますから先生の数も多いです。臨床心理の歴史は関西が発祥なんです。そういったことから専門職大学院も関西からできてきたんですね。専門職大学院は院のみの教員が3名以上いないといけないといった基準があるので、なかなかそのような基準を満たすことは難しいということから、まだ数が少ないです。専門職大学院の修了者には臨床心理士資格試験の小論文が免除になるという利点もあります。臨床心理士の資格試験は落とすための試験ではありません。基礎的知識と経験を問うもので、合格率は65%、毎年3000人が受験します。

大学院とはどんなところ?


さて、大学院とはどんなところかということからお話していきたいと思います。大学院を選ぶ際のポイントの一つとして、博士後期課程があるかどうかというのも1つのポイントではないかと思います。博士後期まであるところは先輩たちがたくさんいて、先輩からがよく面倒をみてくれるからです。

それから、学部と修士課程は別の大学を選んだ方が良いと思います。理系の場合はもうだいぶこういった傾向が進んでいますね。理系の場合は同じ大学の大学院に進学しても奨学金がつかないんです。別の大学の大学院に進学すると、一からのスタートになりますが、その分緊張感もあり、新鮮な気持ちで学べると思います。 専門職大学院は実習がとても多いですが、まだできて間もないので、本当に成果が出てくるにはあと10年は必要でしょうね。専門職大学院には修士論文がなく、事例を書くだけなんです。

大学院を選ぶとき、どんな先生がいて、どんなゼミをどうやっているのかはチェックしておく必要があります。一口にゼミといっても、毎週1回必ず実施している先生もいれば、学生が来たときにしかやらない先生もいます。このように、募集要項ではわからない裏側まで読むということも大切です。最近、若年層の犯罪などよく耳にしますね。そういったことから、犯罪・非行に関心が高まり、そういった研究をしたいという声も聞くんですが、指導できる先生はあまりいません。自分でこれがやりたいと思っても、論文の指導をしてくれる教員がいなければできないわけなので、教員の専門はよく調べておく必要がありますね。2年間を預けるわけですから、少し汗を流してやってみませんか。

大学を実際に訪れてみるのもとても良いと思います。これは素晴らしい!とか、実施行ってみると雰囲気がわかりますから。東京なら近場に大学が集中していますから、いろいろ回れるでしょう。交通費をかけても、元は取れると思いますよ。できれば、心理臨床センターや研究室も見せてもらえるとなおいいですね。

大学院にもよりますが、大抵一人の先生に学生が3人〜5人つきます。そんな中で意見が違う場合はもうどうしようもないですね。学部の場合は先生1人に大して学生100人といった感じで、逃げ場所もあったでしょうが、大学院は少人数教育ですからそうはいかないんですね。相性がとても大事です。価値観やものの考え方などをしっかりと理解して、選んでください。

臨床心理士の仕事と職場


臨床心理士の主な仕事ですが、面接、アセスメント、地域援助、研究、の順に多いです。面接というのはクライエントが来て、クライエントと面接するというもので、93.3%の方。病院などでの心理テストはアセスメントに入りますがこれが87.1%。次にスクールカウンセラーなど地域援助ですが、これが74.9%。スクールカウンセラーというのは、教育の現場で先生へのコンサルテーションをするというのが本来の目的です。最後に研究ですが、これは57.1%にとどまっています。私は、子供を失った母親を対象としてセルフヘルプグループをみていたことがあります。子供を亡くすというのは母親にとってすさまじくつらい経験です。お母さんたちから助言を求められたら、こうやってみたらどうですか?と助言するのが仕事です。悲しみをいやすということは、時間の経過にまかせてもいいんですが、援助することで少しでも早く癒やされたら、いいですよね。

臨床心理士の職場ですが、最多が保健・医療と、次に教育現場、続いて大学・研究所、福祉の順に多く、この3つが臨床心理士の主な職場です。職域は、徐々にですが、拡大傾向にあります。後で皆さん、各大学のブースに行かれると思いますが、大学院修了後の出口についても聞いて御覧なさい。就職先は大学院によって色々ですから、各大学でお訊ねになるといいと思いますよ。

仕事は、フルタイムが少ないのは残念なことです。県の児童相談所でも、1,2名しか採用しないところに、40名余りが受験に来ます。また、公募が意外に少ないんですね。じゃあどうやって仕事を探すのかというと、卒業生が教えてくれるんです。だからネットワークはとても大事なんですね。自分では中々探せません。

スクールカウンセラーについて少しお話ししますと、スクールカウンセラーの97.5%が臨床心理士です。が、今年から補助率が下げられたので、地方では特に厳しい状態になり、勤務時間の短縮なども見られます。スクールカウンセラーだけで食べて行くのは難しい状況で、かけもちしている人も多いです。

臨床心理士に求められるもの


最後に、臨床心理士に求められるものとして何点かレジュメに挙げておきました。まず、人間に関心があることですね。臨床心理士になっても、お金持ちにはなれません。食べていくだけの収入はもちろんありますが、大金持ちにはなれませんよね。だから自分は、何を満たしたいのか、ということをしっかりと持っていないとやっていけないと思います。

そして豊かな人間性。面接はコミュニケーションを通して行われますから、面接者のパーソナリティはひじょうに重要です。シュビングという人の「精神病者の魂への道」という本を知っていますか?これはアリスという名の統合失調症の患者についての話なんですが、この患者は、自発的な行動はほとんどない状態が続いていました。1日中毛布の中にくるまって出てこないんですね。こういう患者さんがいたら、皆さんならどうしますか?自分も忙しいのにと、起こしたくなりませんか?でもシュビングは、一切なにもしないんですね。ベッドの脇にただ座り、寄り添うだけです。ただ、待つということをするだけなんですね。1日目には何も起こらなかった。2日目には毛布から顔が出ました。そして3日目には「あなたは私のお姉さんなの?」と聞いたというんですね。どうです?ギブ アンド テイクに慣れている私たちには、難しいことですが、この母なる献身性が、アリスの変化の源ではないかといわれています。面接者は、人として豊なものを持っているということがとても大事です。皆さんは、弟や妹から「お姉ちゃん、怖い」と言われたりしたことはないですか?怖いことも大事なときもありますが、相手に対して“ほんわか”した気持ちを与えられるかということも、臨床心理士には重要な資質なんですね。

クライアントは、子供から老人まで年齢層も幅広く、病気も色々です。学校を出たばかりの若い看護師が、VIP病棟に張り付きになっても、「お加減いかがですか?」ぐらいの話はできても、VIPの患者さんに合わせて、政治や経済の話などできるでしょうか?どんなレベルの方にも対応できるように、そのあたりもしっかり勉強しておきたいものですね。皆さんにはいろんな経験をしてほしいと思います。インターネットの世界では絶対わからないこと、実際の社会で、いろんな人相手にいろんな経験を積んでください。

そして自分が精神的に安定していること、これも大事です。クライアントに癒やされるような臨床心理士では失格ですよね。

臨床心理士になってからも5年毎に研修を受け、更新が必要です。研修を重ねて心理学の知識と方法を習得し、広い知識を訓練を重ねていくんです。

皆さんが立派な臨床心理士になることを、応援しています。